しかし、これだからレースは分からない。と言うのが正直な所だ。
前戦、中国GPで痛恨のリタイヤを喫した、ハミルトン。チャンピオン王手はお預けとなり、チャンピオンシップの行方は、最終戦に持ち越した。
ハミルトンは、中国GPで犯した自分のミスに対し、多くの事を学んだと語り、ブラジルでは、冷静にタイトル獲得に臨む事に自信を示していた。
しかし、やはり、いくら至上最強のルーキーと言っても、やはりルーキーであった。
ただでさえ、ワールドチャンピオンを獲得するには、相当のプレッシャーがかかるはずだ。それが、F1史上初となるルーキーによるチャンピオン獲得の可能性がある訳だし、メディアも大騒ぎであれば、やはり想像を絶するプレッシャーがかかっていたのだろう。
表面上は、リラックスして見せ、プレッシャーもはねのけてる様に振る舞っていたが、やはり強心臓のルーキーでも、この偉業は難しかったと言う事だ。過去誰も成し遂げられない偉業。やはりそれだけに、F1と言う最高峰で頂点を極めるのは、ルーキーごときが出来る事ではないのであろう。
さて、迎えた最終戦、ブラジルGP。
フェラーリ、マクラーレン共に互角、ややフェラーリが強い印象があったものの、予選結果は、マッサがPPを獲得するも、ハミルトンが2位を獲得し、両者がっぷりよつと言った感じ。
そして、決勝レース。
フェラーリ勢は、絶好のスタート、3位のライコネンがハミルトンを一気に交わし、2位に浮上。そして、ハミルトンは・・・。やはりタイトルを意識し過ぎていたのだろう。実にハミルトンらしくない、慎重なスタート。慎重過ぎた。ライコネンに抜かれ、一瞬振らついたライコネンにぶつかるのを避ける様に、慎重に減速。その隙にアロンソに抜かれた。
さすがにこれは想定外のシナリオだったのだろう。ハミルトンの冷静さはここで吹き飛んでしまった。次のストレートエンドで、アロンソに並ぶも、ブレーキングミス。コースアウトを喫してしまう。
そして順位を落とし、その後怒濤の勢いでオーバーテイクを繰り返すも、不運にもギアボックスが変調を来たし、スローダウン(ハイドロ系の問題が発生したようだ)。
万事休止かと思われたが、何とかギアボックスは息を吹き返し、再びペースを取り戻した。しかし時は既に遅し、一気に18位まで脱落してしまった。
この時点でチャンピオンシップの行方は完全に分からなくなった。フェラーリはマッサ、ライコネンの1-2体制でアロンソ以下の後続をどんどん引き離して行く。
完全にフェラーリ独走。
アロンソは3番手キープがやっと。途中、BMWのクピサに抜かれてしまうシーンもあり、精彩に欠ける。
そして、ハミルトンは、こう言う状況になったのもあり、3回ピットのギャンブルに出る。
2回目のピットストップで、ライコネンがマッサを交わし、遂にトップに。アロンソは3位が精一杯の状況で、ハミルトンも後方7位に沈んでいる。
結局そのまま、ライコネンがトップチェッカー。アロンソ3位、ハミルトン7位で、一番不利な状況にあったライコネンがまさに奇跡的な逆転チャンピオンを手にした。
物凄いドラマティックな展開。これだからF1は分からない。特にタイトルが掛かった最終戦、普通にレースが終わる方が不思議ではあったが。
しかし、チャンピオンを獲得したライコネンだが、ガッツポーズは見せるものの、過剰にはしゃぐ事もなく、至ってクールだった。実にアイスマンらしい振る舞い。
しかし、悲願のタイトル獲得。2003年、2005年、2度に渡り、チャンピオンシップ2位に終わった。そして奇跡的にやってきた、栄冠。
開幕戦、フェラーリに移籍しての初レースでライコネンは圧倒的な勝利を収めた。今年はライコネンイヤーになる。と誰もが感じたと思う。
しかし、その後は実に精彩を欠いたレースが続く。開幕戦の勢いはどこに行ったのやら。一時期は、チャンピオン争いから脱落したとまで言われた。
この不振の原因は、昨年のミシュランタイヤから、ブリヂストンに変わった事が大きな原因とよく言われた。しかしそれも要因としてあったかも知れないが、実情はそうではないようだ。一番大きな原因は、フェラーリと言う車が、実に「ミハエル・シューマッハ」仕様だった事のようだ。
シューマッハもライコネンもドライビングスタイルは似ている。アロンソのような激しいステアリングアクションではなく、どちらかと言うとニュートラルなドライビング。しかし、細かく見るとシューマッハとライコネンでは大きな違いがあり、シューマッハはどちらかと言えばアロンソスタイルに近い力技的な所があり、一方ライコネンは、車のモーメントを瞬時に察知し、それを適正にコントロールしようとする、ハミルトンに近いスタイルなのだ。
そのライコネンのスタイルにマイナスとなったのが、フェラーリの非常に良く出来たTC(トラクション・コントロール)らしい。このTCがライコネンの鋭敏な感性を殺してしまう動きをしてしまうので、中々パフォーマンスを発揮する事が出来なかったと言われている。
一時期は自身のドライビングスタイルを変えて、フェラーリと言う車に合わせようとした。その最大の失敗が、モナコの予選でのウォールへのヒットだ。そして、彼は車を自分のスタイルに合わせるしかないと悟り、フェラーリを自分のスタイルに合う様にセッティングを煮詰めてきた。
その成果が出始めたのが、アメリカGPであり、その後のレースでは彼本来の速さを取り戻した。ベルギーでの速さは実にライコネンらしい、ビューティフルでスムースかつ素晴らしい速さを示していた。
着実に車を自分のモノにして、最終的に奇跡的に栄冠を掴んだ。
ライコネンもこれで一つ大きな壁をぶち破った。このままフェラーリと言う車を自分の特性に合わせた車として開発をする事が出来るかが、来年からのポイントだろう。来年からTCを始めとする電子制御が禁止になる事も、抜群の感覚を持つライコネンには有利な可能性が高い。
後はチャンピオンに乗じて、大好物のウォッカに溺れなければいいのだが・・・。
そして、ルイスはまたしても自らのミスで、王者を逃す事になってしまった。
ルーキーイヤーだった彼にとってこれは大きな試練で、また大きな糧となる事だろう。
ハミルトンはクリスチャンらしい。
彼は自分の才能について聞かれた時、思うに、自分には素晴らしい才能があり、これは神から授かったものだ。だから、自分は神から授かったこの才能を最大限に発揮し、生かすことが自分の使命であり、それが神に対しての感謝の行為となる。と発言していた。
22歳にしてこの発言には、えらくびっくりしたのだが、こうした根柢の考え方が彼の強さを支えているのは確かだろう。
紛れもない天才だと思うが、キーはこの若者がどのくらい車の開発能力があるかである。
今年のマクラーレンは、アロンソが繰り返しアピールしていたように、アロンソのお陰でその性能を大きく進歩させたのは事実だと思う。
ルノーをチャンピオンカーにしてきた訳でアロンソの車の開発能力は定評のある所。
ハミルトンが果たして、どの程度、車を熟成させる事が出来るのか。それが来年のポイントのように思う。
そして、アロンソ。
ブラジルでは終始、精彩を欠いていた。
今年は、アロンソにとっては明らかにバッドイヤーだった。
彼の悪い部分もよく出てしまった。タイトルにかける執念。それが完全に裏目に出てしまい、結局マクラーレンと言うチームの中では孤立した存在になってしまった。
来季はルノーに戻る線が濃厚だが、アロンソにとってもチーム(ルノー、マクラーレン双方)にとってもそれがハッピーだ。
今年は散々な成績に終わったルノーだが、もう見切りを付け早い内から来年の車開発に注力している。
ルノーには、セナ、シューマッハ、アロンソを育てた、素晴らしいエンジニア、パット・シモンズがいる。
そして、アロンソには素晴らしい車の開発能力がある。速さ、強さ、正確さ、チームのモチベーション向上や車の熟成能力、いずれも高い次元で結実しているのがアロンソの強さだ。
来季は古巣に戻るとなれば、また水を得た魚のように、強さを発揮してくるだろう。
しかし、シューマッハと言う偉大なる皇帝が引退してどうなるだろうかと思った今年のF1は最高に面白いシーズンとなった。ハミルトンと言う新しいヒーローも生まれた。
シューマッハの事が記憶からどんどん薄れてしまった。そんな濃厚なシーズンだった。
来年も、新チャンピオン、ライコネンとハミルトン、アロンソと言った所で激しいバトルが繰り広げられそうだ。
今シーズンは劇的な結末を持って終わってしまったが、来シーズンも大いに楽しめそう。
今から3月が楽しみだ。
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